眉間のしわ


「てーづか、まぁた一年生がびっくりしてるぞぉー」

練習に入らず周りを動き回っている菊丸を一睨みして退散させる。

「手塚部長ー。そんな顔しててもいいことないっすよー!」

取り敢えず桃城にはグラウンドを10周ほど走らせた。

「手塚の機嫌が悪い確立、98.2%」

乾は乾で訊きもしないのにどこから算出したのか分からない数字を並べている。

「手塚、あんまり根詰過ぎない方がいいよ」

河村が心配そうにこちらの顔を伺って来た。

「部長、ここ」

そして期待のルーキーまでもが帽子のツバの真下辺りを指で小突く。

「フシュー…」

海堂は俺の顔、越前が指した場所を見やり、また自分の練習に戻っていった。

「手塚ったら、気付いてないの?」

くすくすと不二が笑っていたので走らせようとしたら逃げられた。

「何なんだ、先ほどから…俺の顔に何かついてるのか?」

鏡は無いし、わざわざ見に行くのも癪だ。が、どうにも気になって仕方が無い。
額に手をあててみても、暑さのためか汗で少し湿っているだけで特に異常は感じられない。
それに、何かが足りない気がする。空気を失ったような、空虚感のようなものが頭から離れない。
大石がいれば、こんなことも………大石?

「すまん、手塚。学年委員が長引いて…」

その時丁度、遅れてきた大石が着替えを終えてコートに入ってきた。
自分が来る前何が起こっていたのか知る訳もない大石が、俺の前に歩み寄ると自分の眉間を指す。

「手塚、眉間にしわ、寄ってるぞ。また桃辺りが何かしたのか?」

俺は漸く理解した。皆が言っていたのはこのせいだ、と。

大石との会話が聞こえていたのか、グラウンドを走る桃城が大声を上げる。

「酷いっスよ大石先輩!!俺は何もしてないですってー!」
「まだ残ってるんだろ?早く終わらせて来い!…全く、懲りないな。なぁ、手塚」

柔らかな残響を聞きながら思う。感じていた空虚感はこのせいだ、と。

「大石」
「ん?」

大石はいつも穏やかだ。だからこそ、こんな俺の補佐ができるのだろう。

「…また、俺が…酷い顔をしていたら言ってくれ。直す努力をする」
「酷い顔って、そのしわのことか?」
「…何故か皆これを見ると笑う」

それを聞いて、今度は大石が噴き出す。最後の砦が崩れ落ちたような気分だった。

「そんなに可笑しいか」
「いや?確かに気を張りすぎるのは良くないと思うけど、無理に直さなくていいんじゃないか?」

大石は先ほどとは違う笑みを作るとゆっくりと言葉を紡いだ。

「みんなもそうだと思うけど、試合中に手塚の顔を見たら気合入るよ。俺は好きだな」

そして俺は漸く気付く。俺の眉間のしわはこのせいだ、と。

「………アップしてこい」
「あぁ、そうだった。ごめん、すぐ戻ってくる」

大石の後姿を見送りながら俺は自分の眉間に手を触れた。
刻まれた凹凸は深かった。


2008.8.31~2009.1.24 眉間のしわ
大石がいないだけで機嫌が悪い手塚。まだ中3なんで悟れてません。